大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和58年(ワ)2037号 判決

原告

破産者コロナ燃焼工業株式会社破産管財人

牛嶋勉

被告

破産者新日本燃焼株式会社破産管財人

田中嘉之

主文

一  破産者コロナ燃焼工業株式会社が破産者新日本燃焼株式会社に対し、融通手形決済資金支払請求債権金三一五万円を破産債権として有することを確定する。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  破産者コロナ燃焼工業株式会社が破産者新日本燃焼株式会社に対し、融通手形決済資金支払請求債権金六〇七万円および売掛金債権金一四一万四七三円、合計金七四八万七四七三円の破産債権を有することを確定する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  破産者コロナ燃焼工業株式会社(以下破産者コロナという。)は、昭和五七年一二月一三日破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された。

2  破産者新日本燃焼株式会社(以下破産者新日本という。)は、前年一〇月二七日破産宣告を受け、被告が破産管財人に選任された。

3  破産者コロナと破産者新日本は、互いに融通手形を振出してこれを交換し、金融を受けていたが、金額および支払期日の等しい融通手形を交換し合つていたのではなく、各融通手形について、被融通者が第三者から融資(割引)を受けた場合は、支払期日までに被融通者が当該融通手形の決済資金を融通者(手形振出人)に送金する旨の合意(融通契約)が存した。

そして、昭和五七年九月までに支払期日が到来した融通手形は、相互に融通契約が履行され、決済された。

同年一〇月以降に支払期日の到来する融通手形は、別表(一)(破産者コロナ振出)および別表(二)(破産者新日本振出)のとおりであつた。ところが、破産者新日本および同コロナが相次いで倒産した。

4  破産者新日本は、破産者コロナから受け取つた別表(一)の融通手形のうち、九番を除く一番ないし八番の手形については、金融機関で割引を受けたが、破産者コロナに対し、昭和五七年九月二五日に五〇万円、一〇月五日に三七〇万円、一〇月一三日に二二〇万円、合計六四〇万円を送金したにとどまり、以後、一切融通手形決済資金を送金しなかつた。

また、破産者新日本は、別表(一)の一番ないし八番の手形を全く買戻さなかつたため、破産者コロナが決済した一番および二番の手形を除く、三番ないし八番の手形につき、破産者コロナの破産事件において、割引いた各銀行から債権届出がされ、原告は、これらを破産債権として認めざるを得なかつた。尚、別表(一)の九番の手形については、破産者新日本は割引を受けず、これは昭和五八年一月二二日被告から原告に返却された。

5  破産者コロタは、破産者新日本から受け取つた別表(二)の融通手形のうち、七番を除く一番ないし六番および八番の手形につき、金融機関で割引を受けた。そして、破産者コロナは、別表(一)の一番および二番の手形を決済するとともに、別表(二)の破産者新日本振出手形の買戻しに努め、昭和五七年一一月九日、別表(二)の二番および五番の手形を第一勧業銀行から買戻した。

その後、破産者コロナは、昭和五七年一一月二〇日、三菱銀行が行つた相殺(受働債権は預金債権)により別表(二)の一番の手形を買戻し、昭和五七年一二月一六日、富士銀行が行つた相殺(受働債権は預金債権等)により別表(二)の三番、四番、八番の手形を買戻し、昭和五八年五月二〇日、三菱銀行が行つた担保手形金充当により別表(二)の六番の手形の一部金六〇万〇二四三円分を買戻した。

なお、別表(二)の七番の手形については、破産者コロナは割引を受けず、右手形は、現在、原告が所持している。

6  右のとおりであるから、破産者新日本は、破産者コロナから受け取つた別表(一)の融通手形のうち、金融機関で割引を受けた一番ないし八番の手形の決済資金合計一二四七万円を破産者コロナに送金すべきであつたところ、合計六四〇万円を送金したにとどまるので、破産者コロナは、破産者新日本に対して、右差額六〇七万円の融通手形決済資金請求債権を有するものである。

また、破産者コロナは、右債権のほか、破産者新日本に対して、売掛金債権合計一四一万七四七三円を有している。

7  破産者コロナは、破産者新日本の破産事件において、昭和五七年一一月、融通手形決済資金請求債権八一二万四〇〇〇円(別表(一)の九番の手形金額二〇五万四〇〇〇円を含む)および売掛金債権一四一万七四七三円の合計九五四万一四七三円を破産債権として届出た。

被告は、昭和五八年二月一〇日の債権調査期日において、右届出債権のうち金四三三万七四七三円のみを認め、残額金五二〇万四〇〇〇円につき異譲を述べた。

8  よつて、原告は、右届出債権額金九五四万一四七三円から金二〇五万四〇〇〇円を控除した金七四八万七四七三円につき破産債権としての確定を求めるため本訴に及んだ。

二  請求原因事実に対する認否および被告の主張

1  請求原因事実1ないし5および7は認める。同6のうち、破産者コロナが破産者新日本に対し、六〇七万円の融通手形決済資金請求権を有することは否認し、その余は認める。

2  融通手形の振出人(融通者)が手形金を支払つた場合は、被融通者が手形金相当額を不当利得したものとして、融通者に同金額の返還請求が認められるか、あるいは被融通者の手形決済資金支払債務不履行として、融通者の支払つた手形金と同額の損害賠償請求権が認められるが、何ら手形金を支払つていない融通者に決済資金請求権などは認められない。被告側の破産事件においても、原告主張の破産者コロナから破産者新日本に対する融通手形は、いずれも、中央相互銀行及び協和銀行から買戻請求権が債権届され、これらはいずれも確定したので、被告は、六月三日、配当率一五パーセントによる第一回配当金を支払つた。

仮に、原告の請求が認容されるならば、被告は、一通の手形につき、二重払いを余儀なくされるが、これは、明らかに不合理であり、且つ、何ら手形金を支払つていない原告に対し被告が配当金を支払わなければならなくなる点も、明らかに不合理である。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因事実1ないし5、同6のうち破産者コロナが破産者新日本に対し、売掛金債権合計一四一万七四七三円を有していること、および同7は当事者間に争いがない。

二本件訴訟の争点は、融通手形の振出人が所持人に対し手形金を支払う前に、被融通者である手形受取人に対し、当該手形の決済資金支払請求権を有するか否かという点である。

三そこで案するに、右決済資金支払請求権の有無は、融通手形を交換したということで一律に決し得べきものではなく、結局は、融通者と被融通者の間における契約により定まるものであるところ、破産者コロナと破産者新日本との間においては、金額および支払期日の等しい融通手形を交換し合つていたのではなく、各融通手形について、被融通者が第三者から融資(割引)を受けた場合は、支払期日までに被融通者が当該融通手形の決済資金を融通者(手形振出人)に送金する旨の合意が存した事実については当事者間に争いがないのであるから、本件においては、右の争いのない事実を前提として判断すべきである。そうすると、破産者コロナと破産者新日本が金額および支払期日の等しい融通手形を交換し合つていたのであれば格別、右の争いのない事実を前提とすれば、他に請求権の行使を妨げる事由がない限り、契約の趣旨から判断して、破産者コロナの本件決済資金支払請求権の存在を認めなければならない。

そこで、請求権の行使を妨げる事由の有無について判断するが、破産者新日本が破産者コロナ振出の約束手形を他で割引いた場合、破産者新日本が当該手形を買戻す等して、破産者コロナが振出人としての責任を追及される可能性が消滅するまでは、前記のとおり両者の契約の趣旨からして、破産者コロナは、当該手形の決済資金支払請求権を有しているのであるから、仮りに、破産者新日本が中央相互銀行および協和銀行の手形買戻請求権が債権届されたことに基づき、配当金を支払つたとしても、未だ破産者コロナの振出責任が消滅しない以上、破産者コロナの決済資金支払請求権は消滅しないものといわなければならない。

その他、破産者コロナの右請求権行使を妨げるべき事由の存在を認めることはできない。

四尚、原告の届出債権のうち、債権調査期日において被告が認めた分は既に確定しているのであるから、本件訴訟において確認する利益はない。

別表(一) 破産者コロナ振出融通手形

番号

支払期日

(昭和・年・月・日)

金額(円)

割引金融機関

備考

1

57.10.10

1,200,000

――――

破産者コロナ決済

2

57.10.20

1,720,000

――――

同上

3

57.11.10

1,000,000

協和銀行

58.2.4同銀行から債権届出(破産者コロナ破産事件)

4

57.11.20

350,000

同上

同上

5

57.12.20

2,000,000

同上

同上

6

58.1.20

2,000,000

中央相互銀行

58.2.2同銀行から債権届出(破産者コロナ破産事件)

7

58.2.10

2,400,000

協和銀行

3番と同じ

8

58.2.20

1,800,000

同上

同上

9

58.2.28

2,054,000

(不割引)

58.1.22被告から原告へ返却

合計

14,524,000

別表(二) 破産者新日本振出融通手形

番号

支払期日

(昭和・年・月・日)

金額(円)

割引金融機関

備考

1

57.11.15

1,670,000

三菱銀行

57.11.20買戻(預金債権と相殺)

2

57.11.15

1,330,000

第一勧業銀行

57.11.9買戻

3

57.12.15

1,740,000

富士銀行

57.12.16買戻(預金債権等と相殺)

4

58.1.15

2,710,000

同上

同上

5

58.1.31

1,200,000

第一勧業銀行

2番と同じ

6

58.1.31

1,600,000

三菱銀行

58.1.24同銀行から債権届出(破産者コロナ破産事件)

58.5.20一部600,243円分買戻(担保手形金充当)

7

58.1.31

3,280,000

(不割引)

原告所持

8

58.3.15

2,800,000

富士銀行

3番と同じ

合計

16,330,000

よつて、被告から異議の述べられた債権額金五二〇万四〇〇〇円から金二〇五万四〇〇〇円を控除した金三一五万円につき、破産者コロナは破産者新日本に対し、手形決済資金支払請求権を有することになるので、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(村上和之)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例